Cultural function of cast iron-文化としての鉄

2010年1月6日  投稿者:盛岡商工会議所

Dr. Tapio Periäinen Architect, free-lance environmental reseacher

タピオ ペリアイネン 建築家、フリーランス環境研究家

<Profile>

ヘルシンキ工科大学建築科卒博士

1962-1963 京都大学工学部建築学科留学

1975-1995 Design Forum Finland 事務局長

 

木と鋳鉄は、人間の暮らしと文化の発展を支えてきました。そして、木と鉄という二つの自然素材は、異なる歴史をもち、遠くはなれた日本とフィンランドの文化を近づけてくれました。

美しい島に暮らす日本の人々は、何百年何千年という時間に培われた文化の中で、木と鋳鉄を最高のレベルで利用するに至りました。

一方、過酷な自然の中で暮らすフィンランド人は、自らの精神文化とともにある木と鉄、木で造られた家と炉火に助けられながら、自然との闘いを続け、発展してきました。

鉄は有史以前から、よく知られる素材でした。1616年にフィンランドで初めての高炉が造られ、その頃、鋳鉄製鍋の国内生産が始まりました。それ以前は、スウェーデンとドイツから輸入していたのです。

日常的に使われる丸型の鍋は、人類最古の原型のひとつで、それはフィンランドの歴史においても同じです。初めは陶磁器や青銅で作られ、のちに鋳鉄で作られるようになりました。ニーズに応じて、さまざまなサイズのものが作られました。手作りのものも、工業製品もありました。そして何世紀もの間、装飾のないシンプルな形のものが作り続けられました。単純化された実用的な形は、深い発想とフィンランドのデザインの到達点を内包するものでした。

日本文化の精神性は、もっとも高いところに達しました。洗練されたライフスタイル、高度な生産工程や技術を求めることで、極みへと到達したのです。形や外観のみならず、ものの使い方においても、文化的、美的、倫理的、そして哲学的にも高い価値をもたらす可能性をつくりました。

そのような日本の鋳鉄文化とフィンランドのデザインが出合いました。質の高い日本の鉄器づくりに関わり、「新しい南部鉄器」を創造するこのプロジェクトは、フィンランドのデザイナーにとって挑戦といえるものでした。

日本の伝統的な鉄器づくりの技法のおかげで、フィンランドの鉄器を軽量化することができました。盛岡の工房と一緒に製作に取り組んだ結果、新しくてわくわくするような、そして使い勝手のよいものができたと思います。伝統的な技法を生かした新しい製品は、ヨーロッパに住む人々のテイストにも合い、市場も拡大していくことでしょう。

日本とフィンランド両国の国民は、ともに人間本来の、そして伝統に裏付けられた自然との関係を大切にしています。私たちは、木と鉄という自然素材を使って、偽りがなく美しい、そして実用性に富んだものを生み出してきました。木で住まいをつくり、鉄の鍋を火にかける暮らしを通じて、それぞれの文化を高めてきました。互いにそのことを理解しているからこそ、プロジェクトのメンバーの間には、言葉では表現しつくせない心の交流が生まれたのです。現代の世界的な状況において、こうした文化的な理解と協力は、以前よりもっと大きな意味をもつものと思います。

この新しいデザインのプロジェクトが、今後も岩手に、絶えることのない発展と、成功をもたらすようお祈りします。

 2008.10.3 寄稿